━━━ (山行日記 1999年) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

・ コースの( )内は,当日各地点間の所要時間(途中の休憩時間を含む)を示しています。
 コースタイムは当日の気象条件や体調,メンバー構成などにより異なりますので,参考にされる場合は余裕を持って設定して下さい。特に「単独行」となっているものはハイペースであるため,3〜5割増以上の時間を考慮して下さい。
・ 山名は,国土地理院発行「日本の山岳標高一覧」に記載されている名称(地元で一般的に使われている名)を使用していますので,深田久弥選「日本百名山」の名称とは異なるものがあります。
 (例:東岳=悪沢岳,仙丈ヶ岳=仙丈岳)


 〔目次〕

・8月23日(月)【南アルプス 北岳】広河原〜二俣〜八本歯のコル〜北岳(往復)
・9月26日(日)【富士山】須走口新五合目〜富士山(剣ヶ峯,白山岳:往復)
・10月11日(月)【南アルプス 転付峠】二軒小屋〜転付峠(往復)
・10月22日(金)【愛鷹山 池の平】長泉町森林公園〜池の平(往復)
・10月23日(土)【南アルプス 夜叉神峠】登山口〜夜叉神峠〜高谷山(往復)
・10月24日(日)【蓼科山】七合目登山口〜将軍平〜蓼科山(往復)
・11月6日(土)【愛鷹山 つるべ落としの滝】林道〜池の平〜つるべ落としの滝〜林道
・11月27日(土)【安倍奥 大谷嶺,八紘嶺】扇ノ要〜新窪乗越〜大谷嶺〜八紘嶺(往復)
・11月30日(火)【安倍奥 山伏】西日影沢登山口〜蓬峠〜山伏(往復)
・12月10日(金)【瑞牆山(みずがきやま)】みずがき山荘〜富士見平〜瑞牆山(往復)

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○8月23日(月)【南アルプス 北岳】2名
  広河原 (1:55) 二俣 (2:00) 八本歯のコル (1:00) 北岳 (1:20:迂回路) 八本歯のコル (1:10) 二俣 (1:30) 広河原

 南アルプス北部にそびえる,北岳(きただけ 3,192m:2nd)への山行。
 前日夕方自宅を出発し,途中食料を買い込んで国道52号線を北上。山梨県白根町(しらねちょう)から西へ南アルプス林道へ入る。芦安村(あしやすむら)からは真っ暗な狭い山道となり,夜叉神峠(やしゃじんとうげ 1,770m)を越えると野呂川(のろがわ)沿いの山肌を縫うようにいくつものトンネルや橋を渡り,自宅から4時間ほどで広河原(ひろがわら 1,529m)に到着した。(20:10着)
 ここは白峰三山(しらねさんざん)と呼ばれる北岳,間ノ岳(あいのだけ 3,189m:4th),農鳥岳(のうとりだけ 3,051m:15th)へのアクセスポイントとして利用者が多く,シーズン中は甲府からの定期バスも運行されている。また,甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ 2,967m:24th)や仙丈ヶ岳(せんじょうがたけ 3,033m:17th)への登山口である北沢峠(きたざわとうげ 2,030m)へは,ここから村営バスで30分ほどの距離だ。(一般車乗入れ不可)
 車内で遅い夕食をとり,翌日の支度をして22時に就寝。

 3時起床。見上げるとすばらしい星空が広がっている。朝食を済ませてストレッチを行い,身支度をしていると周囲が明るくなってきた。南西の方角にV字型の谷が見え,その向こうに目指す北岳が頭をのぞかせている。(5:05発)
 北沢峠への道をふさいでいるゲートの横をすり抜けていくと,左側の野呂川にかかる吊り橋があり,それを渡ると広河原山荘の前に出る。ここから大樺沢(おおかんばさわ)の左岸(右側)沿いの登山道に入る。ブナなどの広葉樹林の中の道はところどころ岩や木の根の大きな段差があるが,さほどきつい登りではない。
 小さな沢を渡り,歩き始めてから20分ほどで道標のある分岐に着く。ここを西(右)に登ると,白根御池小屋(しらねおいけごや)を通って北岳の北へのびる小太郎尾根(こたろうおね)に通じているが,今回はそのまま大樺沢沿いを直進する。薄暗い林の中を進むと左手に水の流れが見えてきて,道はその中に続いている。浅瀬の小石の上をピチャピチャと歩き,丸太で組んだ壊れそうな橋を渡っていく。道沿いには薄紫色した小さい釣り鐘状のヒメシャジンや,北沢峠が名前の由来になっているトリカブトの一種キタザワブシなどが花を咲かせている。
 展望のない道をさらに登っていくと目の前が開けてくる。最初のガレ場だ。右を見上げると斜面が小石で覆われたようになっており,落石の危険があるため足早に通過する。ガレ場を過ぎると再び林の中の道となる。ところどころ湧き出す水のため,道がせせらぎのようになっている。
 そのうち広葉樹林帯を抜けて河原のふちを歩くようになると,次のガレ場が見えてくる。このガレ場は落石が多いため,道は大樺沢の右岸(左側)を迂回するようになっている。丸太橋を渡って沢の反対側の斜面から林の中につけられた道を登っていく。ガレ場を迂回したところで沢に下り,また丸太橋を渡り返して左岸の灌木の中を進む。灌木もいつしかなくなり,砂と岩が踏み固まった河原状の道となる。登りはだいぶきつい。右側の草地にはミソガワソウが紫色の花を咲かせている。
 広河原から2時間ほどで,大樺沢二俣(おおかんばさわふたまた 2,209m)に到着。予定より1時間も早い。ここからは名前の通り,沢が2方向に分かれている。このまままっすぐ南西にのびる左俣(ひだりまた)と,西に小太郎尾根へ向かう右俣(みぎまた)だ。どちらの沢も北岳への登山ルートになっている。また,白根御池小屋からの道もここで合流している。この先の左俣にはだいぶ小さくなった雪渓(せっけい=冬積もった雪が解けないで残っているもの)が沢の中ほどに残り,右を見上げると有名な北岳のバットレス(山頂や稜線を支えるような形をした急峻な岩壁)が間近に迫っている。沢の右岸(反対側)には仮設トイレが2基設置され,浄化を行っているのかエンジン音が響いている。
 二俣で15分ほど休憩をとった後,右俣を渡って左俣の左岸を八本歯のコル(はっぽんば− 2,835m:コル=山と山の間の尾根の低い所=鞍部)に向かって登っていく。砂と岩が踏み固まった道の周囲には,ヤマホタルブクロやピンク色したタカネナデシコがいたるところに見られ,黄色いミヤママンネングサやウサギギク,またここに大群落がある絶滅危惧種のミヤマハナシノブが一株だけ花を咲かせていた。
 左岸を登る道は結構急で,左からの日射しも強く登るのがとてもきつい。途中,バットレスからの沢の水でのどを潤し,次第に狭くなった左俣を南(左)に横切るように進み,八本歯沢(はっぽんばざわ)に入っていく。上からは何組かのパーティが下ってくる。
 途中で何回か小休憩をとりながら,急な八本歯沢をジグザクに登っていく。振り返ると鳳凰三山(ほうおうさんざん)の山並みと,その上に八ヶ岳(やつがたけ)の主峰,赤岳(あかだけ 2,899m:33t)が顔をのぞかせている。バットレスでは直登にチャレンジしている人の姿が小さく見え,時折仲間からの大きな声がここまで聞こえてくる。道は途中から沢の西側(右側)の小尾根にとりつき,灌木の中に設けられた急な木製の梯子の道となる。5〜6箇所の急な梯子を休み休み登っていくと,森林限界を超えてハイマツ帯に変わり,二俣から2時間,予定どおりの時間で八本歯のコルに到着した。
 ここは北岳から東へのびる池山吊尾根(いけやまつりおね:吊尾根=近接した2つの頂上を結び弧を描く稜線)上にあり,東(左)へ行くと八本歯の頭(はっぽんばのあたま 2,920m),ボーコン沢の頭(−さわのあたま 2,830m)から池山(いけやま 2,063m)へ通じている。南には今まで見えなかった間ノ岳や農鳥岳などが望め,特にはじめて間近に見る雄大な間ノ岳の姿には感激した。東には八本歯の頭の右に富士山も望めた。
 10分ほど休憩した後,西に山頂を目指して出発。狭い尾根上の木製の梯子を登ると,南側(左側)のガレ場のふちにシロバナタカネビランジを見つけた。北岳のものは花の色が通常のタカネビランジのピンク色よりも白っぽいため,シロバナ−という名がついている。
 ガレ場を過ぎると大きな岩がゴロゴロした斜面となり,岩の上を渡り歩くように登っていく。岩場を登り切ると北岳山荘への分岐点。そこを直進して砂礫の斜面をジグザグに急登する道に入る。道の両側の斜面は色とりどりの花が咲き乱れるお花畑だ。
 ここ北岳には北の白馬岳(しろうまだけ 2,932m:26th)と並んで,高山植物の基準種,固有種が多く,北岳の名を冠し,この山頂付近にしか生育していない植物が数多く見られる。その代表的なものは絶滅危惧種,キタダケソウだ。6月の雪解け後には斜面が白いじゅうたんのように花で埋め尽くされる。今回は既に花期を過ぎていたため見られなかったが,他にもキタダケの名がついたキタダケタンポポ,キタダケキンポウゲ,キタダケトリカブトや,タカネナデシコ,タカネシオガマなどが咲き誇り,私たちを楽しませてくれた。
 お花畑の中をジグザグに登り切ると,間ノ岳との稜線上の吊尾根分岐に出る。ここで山荘からの道と合流し,西側(左側)がガレた斜面のふちを急登すると,まもなく北岳山頂に到着した。
 南北に細長く,テーブルも設置されている山頂からは,オベリスクという岩塔を突き出した地蔵ヶ岳(じぞうがたけ 2,764m:75th),観音岳(かんのんだけ 2,840m:50th),薬師岳(やくしだけ 2,780m:
67th)の鳳凰三山(ほうおうさんざん)や,甲斐駒ヶ岳といった花崗岩の白い山肌が特徴的な山々,たおやかな山容から南アルプスの女王と呼ばれている仙丈ヶ岳。南には間ノ岳,農鳥岳,塩見岳(しおみだけ 3,047m:16th)。東には富士山。その他にも遠く北アルプスは乗鞍岳(のりくらだけ 3,026m:19th)や先のとがった槍ヶ岳(やりがたけ 3,180m:5th),西に中央アルプスの木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ
 2,956m:25th),空木岳(うつぎだけ 2,864m:41th)などの山々。富士山以外は全て下に見える山頂からは,360°の大パノラマが満喫できた。
 続々とパーティが登ってくる中,すばらしい景色をおかずに昼食をとった後,下山を開始した。基本的には来た道を戻るのだが,途中吊尾根分岐を東(左)へ曲がらずに北岳山荘近くまで下り,回り道をして八本歯のコルへ向かうことにした。
 途中の斜面もキタダケソウやハクサンイチゲなどのお花畑だ。両方とも花期は過ぎていたが,代わりにタカネシオガマ,ミヤマシャジン,キタダケトリカブト,キンロバイ,キタダケタンポポ,タカネナデシコ,キタダケキンポウゲ,ミネウスユキソウなどが一面に色とりどりの花を咲かせていた。また,淡黄色のトウヤクリンドウやこれも絶滅危惧種のタカネコウリンカも1箇所だけ咲いていた。
 高山植物を堪能し,八本歯のコルから来た道を下る。登りもきつかったが下りもきつい。落石やスリップに気をつけながら比較的ゆっくりと下っていく。登りの時間の蓄えを取り崩し,足が限界に達した頃,ほぼ予定どおりの時間で広河原に到着した。(15:40着) 
 十分ストレッチをして水分をたっぷり補給し,自宅に向けマイカーを走らせて,20時すぎ無事帰宅した。
 累積標高差1,693m,実歩行時間8時間5分。富士山よりもきついと感じた今回のコース。次回は1泊2日で余裕を持った計画にしたい。

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○9月26日(日)【富士山】単独行
  須走口新五合目 (1:50) 六合目 (0:45) 七合目 (0:30) 本七合目 (0:20) 八合目 (0:15) 本八合目 (0:30) 九合目 (0:25) 久須志神社 (0:10) 白山岳 (0:25) 剣ヶ峯 (0:25) 久須志神社 (0:30) 八合目 (0:25) 七合目 (0:30) 砂払五合目 (0:30) 須走口新五合目

 7月6日に続いて今年2回目の富士登山。
 深夜自宅を出発し,食料を買い込んで国道138号線から富士あざみラインを進み,標高2,000mの須走口新五合目(すばしりぐちしんごごうめ)に到着。一段高いところにある駐車場に車を止めて朝食を済ませる。月明かりに富士山の黒いシルエットが浮かんでいる。
 まだ周囲が真っ暗な午前4時40分,ウオーキングライトの明かりを頼りに出発。100mほど下って小屋の前から登山道に入っていく。すぐに小富士(こふじ)への道を右に分けて,古御岳神社(こみたけじんじゃ)の前に着く。ここから登山道と下山道が分かれる。ダケカンバなどの広葉樹林帯の真っ暗な道を,ところどころに立っている「須走口登山道」というに標識に沿って進んでいく。ゴツゴツした溶岩が時々顔を出す土の道で,勾配もさほどなく歩きやすい。
 歩くにつれて木々の背丈が低くなり,しばらく行くと開けたところに出る。振り返ると東の方が明るくなっていて,左下に山中湖(やまなかこ)の湖面が見えている。そこから先は砂礫帯と樹林帯を行ったり来たりしながらジグザグに登っていく。道は砂礫に覆われているが,固く締まっていて足が潜らないので歩きやすい。道の両側にはトリカブトの一種で富士山にしか見られないオオサワブシが紫色の花を咲かせている。
 しばらく行くとだいぶ空が明るくなってきた。登山道の南側(左側)の砂礫帯に出て日の出を待つことにする。三脚にカメラをセットしてシャッターチャンスを狙う。富士山に朝日があたり,真っ赤に染まる瞬間を狙ってシャッターを切る。そして日の出。
 灌木の中を再びジグザグに登っていくと,小屋の前に出る。ここでやっと富士宮口新五合目とほぼ同じ標高2,400mの本五合目だ。さらに緑の中の砂礫の道を登ること30分ほどで六合目の小屋(2,627m)に到着した。眼下には山中湖が,その向こうには丹沢(たんざわ 最高峰:蛭ヶ岳(ひるがたけ 1,673m))や箱根(はこね 最高峰:神山(かみやま 1,438m))の山々,そして伊豆の天城山(あまぎさん 最高峰:万三郎岳(ばんざぶろうだけ 1,406m))まで,みな雲海の上にその山並みを浮かべているように見える。
 小休憩の後,まだ緑が続く道を登っていく。日が昇ってからは風が出てきてため,Tシャツ1枚では多少肌寒く感じる。それでも汗をかくよりはと,そのまま歩き続けた。昔,お中道(おちゅうどう)が通っていて今は小屋跡だけが残っている本六合目を過ぎ,緑がとぎれるとやがて七合目太陽館
(2,920m)だ。この小屋は10月中旬まで営業している。ここで一旦下山道と合流し,少し上でまた分かれる。砂礫が深くなった道は多少歩きにくくなり,勾配もきつくなってくる。山頂から吹き降ろす風もだいぶ強くなり,行く手を遮るようだ。本七合目(3,190m)を過ぎ,八合目(3,270m)で吉田口下山道と合流。そして本八合目(3,360m)で吉田口登山道と合流する。北には甲武信ヶ岳(こぶしがたけ
 2,475m)から金峰山(きんぷさん 2,599m:126th),瑞牆山(みずがきやま 2,230m)などの奥秩父(おくちちぶ)の山々や八ヶ岳(やつがたけ 最高峰:赤岳(あかだけ 2,899m:33th))などがくっきりと見えている。
 八合目から上は,ところどころ階段状になった赤茶けた砂礫の道が続く。砂に足を取られ,また空気が薄いせいか,とてもきつい感じだ。九合目(3,600m)を過ぎ,狛犬に迎えられて鳥居をくぐると,吉田・須走口山頂の久須志神社(くすしじんじゃ 3,723m)に到着した。(9:45着) 予定より1時間ほど早い5時間5分での登頂。前回の富士宮口では3時間20分だったが,今回の方が標高差が400m高い分,当然時間がかかった。
 神社の前で記念写真を撮り,登頂記念のEメールを送る。日射しは暖かいが,さすがにTシャツ1枚では肌寒いため,シャツを着込んで前回行きそびれた白山岳(はくさんだけ 3,756m)に向かった。富士山頂の火口の縁には,測候所のある剣ヶ峯(けんがみね 3,775.6m)から時計回りに,白山岳,久須志岳(3,740m),大日岳(だいにちだけ 3,750m),伊豆岳(いずだけ 3,749m),成就岳(じょうじゅだけ
 3,733m),駒ヶ岳(こまがたけ 3,720m),三島岳(みしまだけ 3,740m)の計8峰があり,そのうち日本一の剣ヶ峯に次いで高いのが,前回ルート選定を誤り通り過ぎてしまった同じ二等三角点がある白山岳だ。
 久須志神社から15分ほどで到着した白山岳では,すばらしい眺望が出迎えてくれた。曇ってはいたが,北方から西方までの山々が全て見えるのではないかと思うほど,遠くまで見渡せた。まずは南アルプス。北の甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ 2,967m:24th)から南の端まで,全山がくっきりと望める。
あれが赤石岳(あかいしだけ 3,120m:7th),あれが聖岳(ひじりだけ 3,013m:21th)と,今夏登ったコースを辿りながらしばし見入った。そして遠くにはうっすらと北アルプスや谷川連峰(たにがわれんぽう)など。昼食をとりながら1時間ほど景色に見とれた。
 白山岳を後にして大沢崩れ(おおさわくずれ)を見下ろしながら剣ヶ峯を往復し,12時45分に下山を開始。下山道は久須志神社の南のはずれからブルドーザー道と共用となっている大きなジグザク道だ。砂礫の深い所を選んで大股に歩くと,スピードに乗って効率よく下ることができる。八合目で小休止し,七合目まで一気に下る。ここで一旦登山道と合流し,この先が下山道のクライマックス,砂走りとなる。スパッツを上げ,タオルで口元を覆って準備完了。七合目を少し下った所から,一直線に下る道を軽快に走り下っていく。ただ,ところどころに岩が埋まっており,慎重にコース取りをしながらの下りで気を抜けない。途中から砂が浅くなり,走るどころかスリップしないように足を運ぶのが精一杯だ。それでも先を行っていた10人ほどのパーティを追い越し,予定の半分の30分ほどで砂払五合目(すなはらいごごうめ)に到着した。だいぶ膝に負担を感じたため,小休憩をとって屈伸やストレッチで筋肉をほぐした。
 この先は樹林帯に入り,随所で咲いているオオサワブシを見ながら古御岳神社で登山道と合流し,観光客でにぎわう土産物屋の前を通って駐車場に戻った。(14:55着)
 累積標高差1,880m,登り約5時間,下り約2時間。砂の少ない砂走り下山道には失望したが,全般に歩きやすく,特に登りは標高差のわりに疲労の少ない道であった。天気に恵まれ景色を堪能できた最高の1日となった。

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○10月11日(月)【南アルプス 転付峠】単独行
  二軒小屋 (1:15) 転付峠 (0:50) 二軒小屋

 予定していた林道の許可が下りないため,東岳(ひがしだけ 3,141m:6th=悪沢岳:わるさわだけ)への登頂をあきらめ日帰りで行ける転付峠(でんつくとうげ 1,990m)への山行。
 夜明け前に自宅を出発し,林道工事関係者の協力を得て4時間ほどで林道の終点,二軒小屋(にけんごや 1,390m)に到着。ここから東へ白峰南嶺(しらねなんれい=北岳(きただけ 3,192m:2nd),間ノ岳(あいのだけ 3,189m:4th),農鳥岳(のうとりだけ 3,051m:15th)の白峰三山(しらねさんざん)から南に延びる山々のことを指す)の中程に位置する転付峠を目指す。
 このコースは,畑薙ダムへの林道が整備される以前に,南アルプス南部への玄関口として栄えた道だが,今は歩く人もそれほど多くない静かなルートだ。
 二軒小屋ロッジの前から山道に入る。コメツガなどの針葉樹に広葉樹が混ざった林の中の土の道だ。途中丸太の手すりがある所を過ぎると道は二手に分かれている。右は木の幹に青いペンキで矢印となにやら文字が書いてある。たぶん水場だ。左の道の先に道標がある。
 山の斜面をジグザグに高度を稼いでいく。小石の混ざった土の道は段差もなく歩きやすいが,傾斜は結構きつい。たちまちふくらはぎが疲労感を訴えてくる。カラマツ林を過ぎて下に林道を見送る辺りから,振り返ると千枚岳(せんまいだけ 2,880m)が望めるようになる。
 途中何ヶ所か道が付け替えられ,ガイドブックの記述とは異なっているが,迷うような所はない。ガレ場の縁を通り,笹に覆われた下り加減の道になると,堀のような所に出る。そこをぐるっと時計回りに迂回して登り返すと,その先が転付峠だ。
 峠には林道が通っているが,木に囲まれて展望は全くきかない。標識に従って北(左)の展望台を目指すことにした。林道を5分ほど進むと第1展望台,さらにその先5分ちょっとの所に第2展望台がある。第1展望台からは富士山が,第2展望台からは東岳,赤石岳(あかいしだけ3,120m:7th),聖岳(ひじりだけ 3,013m:21th),上河内岳(かみこうちだけ 2,803m:63th),茶臼岳(ちゃうすだけ 2,604m:121th)など南アルプス南部の山々が望めた。特に手前に千枚岳を従えた東岳のどっしりとした姿は印象的だ。
 峠から南に2,3分の所にトイレがある。そこから旧道が西の笹原の中に続いており,地図に「展望台」として載っている場所はその先にあった。だが周りを木に囲まれ,展望はなかった。
 帰りは同じ道を二軒小屋まで下り,ロッジ前の広場にあるベンチで昼食とした。

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○10月22日(金)【愛鷹山 池の平】単独行
  長泉町森林公園 (0:40) 池の平展望公園 (0:30) 長泉町森林公園

 軽い運動をということで,久しぶりに愛鷹山(あしたかやま)中腹の池の平(いけのだいら)に出かけた。
 長泉町内の三島エースゴルフ場の前を通り,森林公園駐車場(670m)に到着。ここから町で整備した池の平へのハイキングコースを歩く。檜など人工林の中の薄暗い道だが,数カ所に案内図が設置されているなど,よく整備されている。階段状の直登コースと東西に迂回する散策コースとがあるが,今回は散策コースを歩いた。小さな吊り橋があったり,ところどころにベンチも設置されていて,家族連れでも十分に楽しめる。
 途中林道を横切り,駐車場から30分ほどで展望広場に到着した。芝生の斜面にはベンチやテラスなどが設置されていて,沼津,三島方面が一望できる。
 ここからさらに西側が開けた尾根道を行く。ちょっときつい登りだが,10分ほどで今日の目的地,池の平展望公園(いけのだいらてんぼうこうえん 860m)に到着。ちょっとした遊具や望遠鏡,ベンチ,展望台が設けられており,お弁当を広げるのにもってこいの場所だ。この日はあいにくの天気だったが,三島,沼津の市街地をはじめ,伊豆,箱根の山々が一望できる,絶好の展望ポイントになっている。

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○10月23日(土)【南アルプス 夜叉神峠】単独行
  夜叉神峠登山口 (0:40) 夜叉神峠 (0:15) 高谷山 (0:15) 夜叉神峠 (0:30) 夜叉神峠登山口

 紅葉狩りの下見を兼ねて,南アルプス北部の山梨県側玄関口,夜叉神峠(やしゃじんとうげ 1,770m)への山行。
 夜明け前に自宅を出発し,3時間ほどかけて広河原(ひろがわら)へ通じる南アルプス林道の途中にある登山口(1,380m)に到着。林道脇には数十台の駐車スペースがあるが,既に7割方車が止めてある。
 準備を整えて出発。カラマツと広葉樹が混ざった林の中をジグザグに登っていく。小石の混ざった土の道は,二人並んで歩けるくらいに幅が広い。展望はないが,歩きやすい道をぐんぐん登っていくと,40分ほどで視界が開け,白峰三山(しらねさんざん)の雄姿が目に飛び込んできた。天気は快晴,すばらしい。数日前に降った雪が,その姿を一層引き立てている。地形的にはここが峠であるが,夜叉神峠の看板はこの先の小屋の前だ。堀状の急な道を登ること数分で,夜叉神峠小屋に到着した。
 小屋の前は広く,ベンチなどもあり,もう既に大勢のハイカーがお弁当を広げていた。西側は広く開けており,北岳(きただけ 3,192m:2nd),間ノ岳(あいのだけ 3,189m:4th),農鳥岳(のうとりだけ 3,051m:15th)の白峰三山(しらねさんざん)から広河内岳(ひろごうちだけ 2,895m:35th),大籠岳(おおかごだけ 2,767m:74th)といった白峰南嶺(しらねなんれい)までが一望できる。また雪をかぶった東岳(ひがしだけ 3,141m:6th=悪沢岳:わるさわだけ)も山頂だけ顔をのぞかせている。ただ残念ながら,甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ 2,967m:24th)は望めなかった。
 ここまででは物足りないので,南に30分ほどの所にある高谷山(たかたにやま 1,842m)まで足を延ばした。林の中の緩やかな土の道を登っていくと,20分ほどで林の中の頂に到着した。木立の間から白峰三山に加え,先ほど見えなかった甲斐駒ヶ岳がわずかに山頂だけその姿を見せている。
 その後は夜叉神峠まで戻り,景色を堪能しながら昼食をとって,来た道を下山した。

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○10月24日(日)【蓼科山】単独行
  七合目登山口 (0:55) 将軍平 (0:25) 蓼科山 (0:20) 将軍平 (0:40) 七合目登山口

 家族サービスを兼ねて,蓼科(たてしな)の白樺湖畔(しらかばこはん)にそびえる蓼科山(たてしなやま 2,530m)への山行。
 夜明け前に自宅を出発。途中ドライブを兼ねて霧ヶ峰(きりがみね)から白樺湖へ。そこで家族を降ろし,一路登山口に向かう。蓼科山へはいくつかの登山道があるが,今回は最も短時間で登れる七合目からのコースを選んだ。
 蓼科牧場から有料の夢ノ平林道(ゆめのだいらりんどう)を進み,一の鳥居(いちのとりい)が建つ七合目(1,910m)に到着。道路脇にトイレと駐車場があるが,既に満車。しかたなく100mほど下った道路横の広い空き地に車を止め出発。
 針葉樹林の中の土の道を緩やかに登っていく。周りには笹が生い茂っている。途中から笹がなくなり,代わりに緑のコケがびっしりと地面を覆っている。道の両側に緑のロープが張られるあたりから勾配は急になり,道も小石と岩が混ざったでこぼこの道になる。やがて岩がゴロゴロした沢のような道に変わる。沢を丸太で斜めにせき止めるように階段状になった道を直登する。けっこうきつい登りだ。しばらく行くと道は南西(右)の林の中に入って行く。岩がでこぼことした土の道で,多少は歩きやすいが勾配がきつい。
 七合目から1時間ほどで蓼科山荘が建つ将軍平(しょうぐんだいら 2,350m)に到着した。ここで一服して,いよいよ蓼科山本体への急登だ。大きな岩を積み重ねたような所を一歩一歩登っていく。周りに木々はなく,遠くまで見渡せる。数組のパーティが登っていくのが見える。山頂近くから南東(左)にトラバース(斜面を横断すること)気味に登っていくと,まもなく山頂ヒュッテの前に出た。山頂はその先だ。
 蓼科山の山頂は大きな溶岩石の原っぱで,野球場がすっぽり収まるくらいの広さがある。天気は快晴。気温は低かったが,日が射しているため半袖でもさほど寒さを感じない。眺望は抜群で,360°の大パノラマだ。北,中央,南の各アルプスをはじめ,八ヶ岳(やつがたけ 最高峰:赤岳(あかだけ
 2,899m))の峰々,両神山(りょうかみさん 1,723m),甲武信ヶ岳(こぶしがたけ 2,475m)などの奥秩父(おくちちぶ)の山々,男体山(なんたいさん 2,484m),皇海山(すかいさん 2,144m)などの北関東の山々,浅間山(あさまやま 2,568m),妙高山(みょうこうさん 2,454m)など,他にも数え切れないほど多くの山々が一望できた。大勢のハイカーが思い思いの場所でお弁当を広げている中,記念写真を撮り昼食にした。そのあと歩きにくい山頂を一周して下山した。

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○11月6日(土)【愛鷹山 つるべ落としの滝】単独行
  林道 (0:25) 池の平 (0:40) つるべ落としの滝 (0:30) 林道

 久しぶりに愛鷹山(あしたかやま)の中腹にある,つるべ落としの滝(933m)への山行。
 自宅から車で30分,長泉町の北西のはずれにある水神社からさらに林道を進むと,分岐点にゲートがある。そこの道端(640m)に車を止めて出発。既に県外ナンバーの車が3台駐車してある。
 舗装された林道をさらに進む。道端にはたくさんのリンドウが花を咲かせている。10分ほど行くと小さな道標が東側(左側)に見える。ここからが山道だ。笹,竹のトンネルに入り,抜けるといきなり急な登り。ところどころアザミの花が咲いている開けた急斜面をまっすぐに登っていく。みるみるうちに高度を稼ぎ,眼下にゴルフ場が見えてくる。急登も5分ほどで,先日歩いた森林公園からの尾根道と合流する。そこから10分ほどの登りで池の平展望公園(いけのだいらてんぼうこうえん 860m)に到着した。
 この日は天気もよく,伊豆,箱根の山々から日本平までが一望できた。景色を堪能した後,案内板の横を北西に道を進める。ヒノキ林の中を一旦やや下りゆるやかに登り返すと,位牌岳(いはいだけ 1,458m)への登山道との分岐にさしかかる。ここを北(右)に笹竹の中を行くと2時間ほどで位牌岳に至る。今回は分岐をまっすぐに行く。木は広葉樹に変わり,山腹をトラバースする(斜面を横断する)ように多少のアップダウンを繰り返しながら進んでいく。何ヶ所か足場の悪い所もあるが,周りの笹はきれいに刈り取られており,家族連れでも十分歩けるコースだ。
 池の平から30分ちょっとで,沢沿いを登ってくる道と合流する。ここから東側(右側)のヒノキ林の斜面を斜めに登っていき,岩がゴロゴロした沢を横切って反対斜面の木段を登っていくと,右に滝への道が分かれる。このままこの道を登ると,沢づたいに位牌岳に至るコースとなっている。つるべ落としの滝はもう目の前だ。
 あいにくこの時期は水量が少なく,滝というより水道の蛇口から流れ出る程度といった感じでとてもお勧めできるものではない。見頃は水量の多い5月頃だ。
 帰りは沢沿いの道をまっすぐ下っていく。途中,板状節理(ばんじょうせつり=火成岩などに規則正しく板のように割れ目が入ること。他には柱状節理などがある)が見られる所をすぎ,小さな沢のような岩の歩きにくい道を下っていくと,やがて沢を横断して植林した斜面の裾を通り,木段を下ると林道に飛び出す。そこを南(左)に10分ほどで,車を止めたゲートに戻った。

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○11月27日(土)【安倍奥 大谷嶺,八紘嶺】単独行
  林道終点 (0:10) 扇ノ要 (0:55) 新窪乗越 (0:35) 大谷嶺 (0:25) 五色ノ頭 (0:40) 八紘嶺 (0:30) 五色ノ頭 (0:35) 大谷嶺 (0:30) 新窪乗越 (0:35) 扇ノ要 (0:10) 林道終点

 安倍川の源流域に連なる通称,安倍奥(あべおく)への山行。
 天気予報などでおなじみの静岡県の形。その一番北,真ん中のとがっている所が南アルプスの最高峰,北岳(きただけ 3,192m:2nd)の南に位置する間ノ岳(あいのだけ 3,189m:4th)だ。そこから左側(西側)を南下してくるのが赤石岳(あかいしだけ 3,120m:7th)をはじめとする赤石山脈(あかいしさんみゃく)の主稜。反対に右側(東側)を南下してくるのが,もう一つの稜線を形成する白峰南嶺(しらねなんれい)であり,そこをさらに南下すると,県境は一旦東に折れてまた南下する。この東に折れた部分が今回の目的地,安倍奥の山々だ。
 北の笊ヶ岳(ざるがたけ 2,629m:111th),布引山(ぬのびきやま 2,584m:132th)から山伏(やんぶし 2,014m),笹山(ささやま 1,763m)へと南に続く安倍奥西山稜(−にしさんりょう)と,北の山梨県側に入ったところの七面山(しちめんざん 1,989m)から県境の八紘嶺(はっこうれい 1,918m),十枚山(じゅうまいざん 1,726m),真富士山(まふじやま 1,343m)と南北に連なる安倍奥東山稜(−ひがしさんりょう)とに分けられる。そして両者を東西に結ぶ山稜にあるのが大谷嶺(おおやれい 2,000m)だ。いずれも2,000m級の魅力的な山々が連なっている。今回はその大谷嶺と八紘嶺を目指す。
 ただ,この山域は残念ながら一般のハイキングマップが出版されておらず,アルペンガイドのコース案内と国土地理院発行の2万5千分の一地形図が頼りとなるが,山伏と大谷嶺のコースは地形図にも記載がなく,実際に歩きながら地図に落としていくことになりそうだ。
 なお,大谷嶺の静岡県側は大谷崩(おおやくずれ)といわれる大崩落地になっており,富山県立山の鳶山崩(とんびやまくずれ),長野県の稗田山崩(ひえだやまくずれ)とともに,日本三大崩のひとつに数えられている。安政の大地震により崩れたその面積は,東京ドームの約40倍に近い1.8平方キロメートル,高さは800メートル,そして崩落した土砂の量は10トンダンプカー2千万台分にあたる1億2千万立方メートルにおよんでいる。

 早朝自宅を出発して安倍川沿いを北上し,赤水の滝(あかみずのたき)の少し先,新田(しんでん)部落から西へ林道に入る。途中大島(おおしま)地区で山伏への道を左に見送って,大谷崩の方へさらに舗装道を進む。砂防堰堤を左に見ながら登っていくと,行き止まりが広い駐車スペースになっている。ここに車を止めることにする。(1,265m) 堰堤の向こう岸の山腹に野生の猿の群れがいて,落ち葉の上をガサガサと音を立てて走り回り,ときおりキーっと奇声を上げている。
 身支度を整えて出発。葉が全て落ちた雑木林の中に入っていく。石がゴロゴロした沢を横切り10分ほど行くと,扇ノ要(おうぎのかなめ 1,335m)と呼ばれる場所に着く。文字通り扇形をした大谷崩の要の部分にあたるところだ。その先,堰堤の上に出てさらにススキが生い茂った明るい雑木林の中をゆるやかに登っていく。道は落ち葉に覆われた小石混じりで,歩きにくくはない。そのうち次第に勾配がきつくなり木もまばらになってくると,目の前に大谷崩の威容な姿が広がってくる。稜線から幾筋もの岩の川がなだれ下っており,まさにアリ地獄を大きくしたような感じだ。
 やがて木がなくなると,傾斜もさらにきつくなってくる。道は風に穂を揺らしているススキの茂みの間を縫うように,ジグザグに登っていく。小さな砕石の道だが,固くしまっており足が埋もれることはない。下には先ほどの砂防堰堤がおもちゃのように小さく見えている。山裾から吹き上げる風がとても冷たく感じる。見上げると,稜線近くの木は白い衣をまとったように見える。霧氷だ。稜線を吹き抜ける湿った風が凍り付いてできたものだ。頂上に近づくにつれ砕石の層が厚くなり,足が取られるようになってきた。ザクザクと音を立てながら,一歩一歩確実に登っていく。そして駐車場から1時間あまりで,稜線上の新窪乗越(しんくぼのっこし 1,855m)に到着した。
 「乗越(のっこし)」とは越えることができる鞍部(あんぶ=尾根上の低いところ=コル:フランス語)のことをいう。同じような地形に「峠」があるが,こちらは生活,交易上の道が通る場合に用いられ,乗越とは明確に区別されている。ここを西(左)に行くと山伏に至るが,今回は東(右)に大谷嶺を目指す。
 新窪乗越を出て大谷崩最上部のガレ場の縁を登っていく。30mほどで北側(左側)の針葉樹林の中に入り一つのピークを越えると,今度はガレ場の縁を下る道となる。縁といっても1mくらいは離れているので足下に注意すれば問題はないが,結構急な下りだ。下りきるとガレ場の縁を通って針葉樹林の中を登り返す。岩や木の根で階段状になった急な登りだ。特に急傾斜の所にはロープが設置してある。一旦緩やかになると再びガレ場が見渡せる場所に出る。大谷崩を登るジグザグの登山道とそこを歩く人が小さく見える。さらに林の中を登っていき,最後に急傾斜を登り切ると大谷嶺の山頂に到着した。
 標高は1,999.7m。四捨五入すると2,000mということで,西暦2000年を迎えるのにふさわしい山だ。山頂には大谷嶺の標識の他に山梨県側の呼び名である「行田山(ぎょうだやま)」という真新しい標識も立っている。展望もよく,正面には雪化粧した南アルプスの雄,赤石岳が,そしてその左には聖岳(ひじりだけ 3,013m:21th),上河内岳(かみこうちだけ 2,803m:63th),右には荒川三山や北岳も時折雲の間から顔をのぞかせている。また,白峰南嶺の主峰でふたこぶの笊ヶ岳や布引山も特徴のある姿を見せている。しかし山頂にある温度計は氷点下4℃を指し,風も冷たい。山頂におられた年輩のご夫婦に山の説明をするにも,唇が思うように動かない。そのうち,霧が出てきて景色が見えなくなってしまい,しかたなく次の目的地である八紘嶺を目指して出発した。
 なだらかで笹が多く広い稜線を下っていく。ハイキングコースといった感じで歩きやすい道だ。しばらく行くと,地図に載っていない分岐にさしかかった。さきほどのご夫妻によると,早川町(はやかわちょう)の雨畑(あめはた)から雨畑川沿いの林道を登ってきたところに駐車場が新設され,そこからの登山道が整備されているとのこと。2000年を迎えるにあたって町が整備したものらしい。分岐からわずかに下ったところからは,南アルプスの山々のすばらしい眺めが望める。
 再び分岐から軽快に尾根道を進む。葉が落ちた木々の間から遠くの景色が見える。道は緩やかに登り返し,大谷嶺から20分ほどで八紘嶺とのほぼ中間に位置する五色ノ頭(ごしきのあたま1,859m)に到着した。
 その先はいくぶん痩せた(=細い)尾根道となり,アップダウンも多少きつくなってくる。急な山腹の道幅の狭い箇所もあり,足下に注意しながら進む。途中出会った男性がやはり大谷嶺と八紘嶺とを往復するとのこと。「帰りにまたお会いしましょう」と言って,それぞれの方向へ足を進めた。やがて目の前に八紘嶺の山体が迫ってきて,道は砂混じりの急勾配になる。一歩一歩ゆっくりと登っていくと,大谷嶺から1時間ほどで八紘嶺に到着した。
 山頂は広葉樹に覆われて眺望抜群とはいかなかったが,木々の間から大谷嶺同様,南アルプスの山々が望めた。ただ,本来見えるはずの富士山は霧が晴れたときの一瞬,顔を見せただけで,その勇姿をカメラに収めることはできなかった。さほど広くない山頂には,安倍峠(あべとうげ)方面から次々とパーティが登ってきて,しだいににぎやかさを増していった。ここで昼食をとって来た道を戻った。

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○11月30日(火)【安倍奥 山伏】4名
  西日影沢登山口 (1:30) 蓬峠 (1:35) 山伏 (0:50) 蓬峠 (1:00) 西日影沢登山口

 今回は安倍奥(あべおく)第2弾として,山伏(やんぶし 2,014m)への山行。
 早朝自宅を出発して,前回同様梅ヶ島の新田(しんでん)部落から西へ林道に入り,広い河原の大島沢(おおしまざわ)沿いの林道を進むと,左に広い空き地がある。見ると山伏登山者駐車場と看板が立っている。ここへ駐車して出発。(930m)
 林道を進むと左にカーブしたところが登山口になっており,ここから資材運搬用モノレールを左に見ながら山道に入っていく。広葉樹林の中を落ち葉のじゅうたんの道が西日影沢(にしひかげざわ)沿いに続いている。ゆるやかに登っていくと丸太を渡したような橋が架かっており,それを渡って西日影沢の左岸(沢の上流から見て左側=進行方向の右側)に移る。そこからはヒノキなどの針葉樹林の中の薄暗い道を進む。勾配はそれほどでもない。小さな尾根状の道をしばらく行くと,針葉樹林から抜けてワサビ田に出る。その脇を通って再び沢に架かる丸太の橋を渡り右岸を行くと,目の前に大きな岩が姿を現す。15m位はあろうかというほど大きな岩で,上にはしっかり大木まで生えている。岩の左にはワサビ小屋があり,道は岩の右側を登っていく。
 岩の上流で再び丸太の橋を渡ると,右に小さな沢が分かれる。その沢を渡って川岸の段差を登り切り,そのままヒノキ林の中を西日影沢に沿って緩やかに登っていくと,道は西から北東に大きく進路を変え,急傾斜の山腹を斜めに登るようになる。砂混じりの急勾配で,途中ロープが設置してある。しかしそれもわずかな距離で,勾配も緩やかに山腹を巻いていくと,小さな沢に出る。沢といっても傾斜がかなりきついが,そこは水が豊富にわき出る水場となっている。
 その沢を渡り,右から合流している小さな沢沿いをジグザグに登っていく。広葉樹林の中,道が緩やかになり,その先ガレ場を横切ってひと登りすると,大谷川(おおやがわ)と大島沢の間の尾根に出る。ここが山伏へのほぼ中間点に位置する蓬峠(よもぎとうげ 1,475m)だ。ちょっとしたベンチが設けられており,ひと休みするのにちょうどいい場所となっている。標識やガイドブックには標高1,440mとなっているが,地元山岳会が作成した地図を参考に,今日実際に歩いたルートを地図に落としてみた結果,1,475mという結論になった。ここでしばし休憩をとることにする。北側の蓬沢(よもぎざわ)では砂防工事が進められており,その工事の音が聞こえてくる。
 蓬峠を出ると,道は尾根の北側(右側)を斜めに登っていく。そして折り返して尾根を乗り越えると,今度は南側を斜めに登る道となる。山腹をジグザグに登る道はしっかりとした砂混じりで歩きにくいことはないが,勾配は急だ。笹に覆われた明るい広葉樹林で,後ろを振り返ると木々の間から十枚山(じゅうまいざん 1,726m)などの山並みが望める。しばらく同じような登りを繰り返し,やがてブナの大木が立つ尾根上に出る。ここからも急な尾根道が続く。木の根や岩で段差が急なところにはロープも設置されている。
 蓬峠から1時間以上登り続け,樹相がコメツガなどの針葉樹に変わるとようやく急な登りも終わり,一旦少し下って笹に囲まれた広い道を緩やかに登っていくと,分岐点に出る。南(左)に行くと静岡市営の山伏小屋や牛首(うしくび)を通って,リバウェル井川スキー場がある県民の森まで通じている。ここを北(右)に行くとやがて広々とした笹原に出る。登山道は杭で区画されており,その中はヤナギランの群生地となっている。7〜8月には薄紫色の花であたり一面埋め尽くされるそうだ。そしてその先緩やかに登っていくと,目指す山伏の山頂に到着した。
 山頂からは,ほぼ360°の大パノラマだ。抜けるような青空の下,笹原の向こうに浮かぶ富士山
(3,776m:1st)をはじめ,東岳(ひがしだけ 3,141m:6th=悪沢岳:わるさわだけ),赤石岳(あかいしだけ 3,120m:7th),聖岳(ひじりだけ 3,013m:21th),上河内岳(かみこうちだけ 2,803m:63th),そして光岳(てかりだけ 2,591m:130th)までの南アルプス南部の山々,笊ヶ岳(ざるがたけ 2,629m:111th)や布引山(ぬのびきやま 2,584m:132th)といった白峰南嶺(しらねなんれい)の山々,南アルプス深南部(−しんなんぶ)の大無間山(だいむげんざん 2,329m),そして隣の大谷嶺(おおやれい 2,000m)から七面山(しちめんざん 1,989m),八紘嶺(はっこうれい 1,918m),十枚山へと続く安倍奥東山稜(−ひが
しさんりょう)の山々など,すばらしい眺めを堪能できた。
 風もなくこの季節としては暖かな山頂で,ゆっくり景色と昼食を楽しんだ後,登りと同じ道を駐車場まで下山した。

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○12月10日(金)【奥秩父 瑞牆山】3名
  みずがき山荘 (0:35) 富士見平 (1:35) 瑞牆山 (1:15) 富士見平 (0:25) みずがき山荘

 東京,埼玉,山梨,長野の都県境に広がる奥秩父(おくちちぶ)の山々。その西のはずれ,金峰山(きんぷさん 2,599m:126th)の西にある瑞牆山(みずがきやま 2,230m)への山行。
 山梨県北部の長野県境にほど近いところ,甲府のちょうど真北に位置する瑞牆山は,大ヤスリ,小ヤスリ,鋸岩などの岩峰群から成り,日本百名山の深田久弥(ふかだきゅうや)氏に「針葉樹の大森林からニョキニョキと岩が生えているようなユニークな山」と言わせた奇峰である。
 大昔,地下深くのマグマによってできた花崗岩が,地盤の隆起や氷河の浸食によって地表に顔を出し,そののち太陽光や風雪による風化が進むにつれて,花崗岩特有の方状節理(ほうじょうせつり=岩石が四角形になるように規則正しく割れ目が入ること。他に板状,柱状などがある)によって,柱のように突き出た形状で残ったものと考えられている。
 なお,瑞牆という名前は,古来金峰山を信仰していた時代に,神社の周囲にめぐらす垣根のことを指す瑞塁(みずがき)と呼ばれるようになったものを,第16代の武田山梨県知事によって現在の字が当てはめられたといわれている。

 まだ,夜が明けぬうちに出発し,東富士五湖道路,中央高速と進めて須玉IC(すたま−)から一般道を北上する。途中,神経痛,肝臓障害,リウマチ,胃腸病などに効くラジウムの含有量が世界一といわれる増富ラジウム温泉郷(ますとみ−)を通り,8時過ぎにみずがき山荘に到着。ここの標高は
1,515m。既に愛鷹山(あしたかやま)の最高峰,越前岳(えちぜんだけ 1,505m)を上回っており,空気が冷たく感じられる。山荘前の道路脇駐車スペースに車を止めて出発。
 はじめはシラカバやミズナラといった広葉樹林の散策路といった感じの道だ。厚くたまった落ち葉の上を軽快に歩いていく。そのうち徐々に傾斜がきつくなり,乾いた土が露出した斜面の急な登りとなる。途中で林道を横断してさらに登っていくと,尾根のような所に出て東(右)に進路を変え,林道への分岐を北(左)に見送ってひと登りすると,目の前に小屋が見えてくる。富士見平小屋(ふじみだいらごや 1,815m)だ。ここは金峰山への登山基地としても利用されており,林の中にテントの幕営スペースが設けられている。また少し下ったところに水量の豊富な水場もある。小屋は今の季節無人だがトイレは使える。金峰山への道は,小屋の前を東に続いている。
 休憩の後,小屋の左手を北に瑞牆山への道を進む。コメツガなどの針葉樹林の山腹を緩やかに下っていく。道の所だけ岩がゴロゴロしており,歩きにくい。周囲は青々とした若木が育っている。そのうち緩やかに登り返し,尾根状の所に出ると道が二手に分かれる。そのまま直進すると長野県境にある小川山(おがわやま 2,418m)へ通じている。ここを斜めに下っていく。岩で階段状になっている急な下りだ。滑らないように慎重に下りきると,天鳥川(あまどりがわ)という水のない沢に出た。ここを渡っていよいよ瑞牆山本体への登りだ。
 沢の反対側を小さな谷間に入っていくと,正面に直径15mもあろうかという大きな岩がある。桃太郎岩と言われるこの岩の真ん中には,くの字型に幅50cmほどの割れ目が縦に入っている。その岩の右手にある木製の階段を登っていく。小さな沢の水は凍り付いた滝のようになっている。大きな一枚岩や木製の梯子を過ぎると,コメツガやシャクナゲの多い原生林の中を急登する道となる。大きな岩の間を縫うように,そしていたるところで倒れて朽ちた倒木の下をくぐり,あるいは乗り越えながら,岩と木の根が階段状になった道を進む。
 大ヤスリと呼ばれる直立した大きな岩を西(左)に見送り,木製の梯子を過ぎると,やがてつらかった急登も終わり,山頂とその西側(左側)にそびえる弘法岩(こうぼういわ)との間を抜けて,山頂の北側に回り込む。そこから梯子などでわずかな距離を急登すると,目の前に青空が飛び込んできた。
 積み上げた巨大な岩の頂点である山頂からの眺望のすばらしさは言うまでもない。正面には北岳(きただけ 3,192m:2nd),間ノ岳(あいのだけ 3,189m:4th),仙丈ヶ岳(せんじょうがたけ 3,033m:17th),甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ 2,967m:24th)といった南アルプス北部の山々,その手前には鳳凰三山(ほうおうさんざん),そして遠く東岳(ひがしだけ 3,141m:6th=悪沢岳:わるさわだけ),赤石岳(あかいしだけ 3,120m:7th),聖岳(ひじりだけ 3,013m:21th),上河内岳(かみこうちだけ 2,803m:63th)といった南部の山々も小さく見えている。その左には富士山(ふじさん 3,776m:1st)そして金峰山。一方,正面右には木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ 2,956m:25th)をはじめとする中央アルプスの山々,その右には大きな裾野を持つ御嶽山(おんたけさん 3,067m:14th)がどっしりとした姿を見せている。そしてなんと言っても圧巻なのは,西にそびえる赤岳(あかだけ 2,899m:33th)を主峰とする八ヶ岳(やつがたけ)の雄姿だ。うっすらと白く雪化粧した山並みはいつ見てもすばらしい。また八ヶ岳の右には,鹿島槍ヶ岳(かしまやりがたけ 2,889m:36th)以北の真っ白な北アルプスが,そして北には浅間山(あさまやま 2,568m:136th)が大きな火口をこちらに向けている。なお,山頂の南側は絶壁となっており,足を滑らせたら一巻の終わりだ。その岩から北側のやや下がったところに標識と方位盤が設置してある。
 この日は平日ということもあり他の登山者の姿はなく,この眺望を独り占めにしたような気分を味わいながら昼食をとった。風もなく2千メートルを超えている冬の山とは思えないほど暖かな山頂でたっぷりくつろいだ後,他のパーティが登ってきたのに合わせて山頂をあとにした。

※コースの( )内は,当日各地点間の所要時間で途中の休憩時間を含む
 なお山名は,国土地理院発行「日本の山岳標高一覧」に記載されている名称(地元で一般的に使われている名)を使用していますので,深田久弥選「日本百名山」の名称とは異なるものがあります。
(例:東岳=悪沢岳,仙丈ヶ岳=仙丈岳)